この世界の平和を本気で願ってるブログ

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遠くには四匹の犬

Silver JewsのThe Wild Kindnessという曲がある。晩秋にぴったりの曲だと思うので、もっと多くの人に聴いてほしい。そしてSilver Jewsのことももっと知ってほしい。

 

Silver Jews - The Wild Kindness - YouTube

 

Silver Jewsの作詞作曲を行っていたのはデイビッド・バーマンという人だった。バーマンがバンドを始めた理由は、父親との確執だった。

父親のリチャード・バーマンはアメリカで有数のPR活動家・ロビイストで、飲食業界を中心とする大企業の利益を守るために、市民と労働者の主張・運動を不当に貶めることを生業とする人物だ。彼の手がけたメディア・キャンペーンには、最低賃金の引き上げ反対や、飲酒運転の厳罰化への反対、また労働組合へのネガティブキャンペーン等がある。そんな父親が世界に対して与えた損害を少しでも回復できるように、とバーマンが結成したのがSilver Jewsというバンドだ。

では果たしてその試みはどうなったのか。Silver Jewsは知る人ぞ知るとても良いバンドだったものの、決して有名になることもないまま、とうの昔に解散した。バーマン本人はその後、鬱病に苛まれながらも活動していたが、一昨年に自殺してしまった。一方で、バーマンの父親は今も健在で、様々な労働組合や運動体への攻撃を続けている。表面的な事実だけを見れば、結果は散々である。

それでも私は、Silver Jewsとデイビッド・バーマンは奇跡をやってのけたのだと思う。まず、バーマンがアーティストになったこと自体が驚くべきことだろう。彼も父親のように、巨大な利権にひたすら擦り寄る人になっていてもおかしくはなかった。なんなら、そのほうが本人も長生きできただろうし、より多くの富と名声を得ることができただろう。それでもバーマンが弾圧と搾取ではなく創作の道を選んだことは奇跡だと言える。ましてそこで才能を開花させるなど、限りなく不可能に近い所業だと思う。それをバーマンはやってのけたのだ。

何より、バーマンの残した功績は、父親の仕事とは比べられないほど尊いものだ。バーマンの創った作品は彼の死後も輝きを失っていないし、これからも多くの人々に喜びをもたらすだろう。でもバーマンの父親の仕事は何も生み出さず、ただ壊し、奪うだけだ。彼が死んだ後残るのは、息子に相続されることのない遺産と、彼が傷つけてきた人々の膨大な痛みだけである。

もちろん、その痛みの総量に比べればバーマンの業績は小さい。しかし、どんなに小さいものであれ、誰かに喜びをもたらした時点で、バーマンの仕事は父親のそれよりもよっぽど価値がある。バーマンがそのことをもっとちゃんと分かっていたならば、死ななくても済んだかもしれない、と思う。

芸術は尊い、ということにあぐらをかいて、社会と政治に背を向けて生きることは醜い。だからといって、今の社会と政治のおぞましさに絶望するあまり、創ることどころか、存在すること自体をやめてしまっても、多くの悲しみを残すだけだと思う。生産せよ、消費せよ、資本家の利潤のために貢献せよとせっつかれる今の世において、あくまで感情を動かす何かを創るために活動すること自体、ある種の反抗になり得ると信じている。

バーマンは決してパンクスではなかったけど、やはりこの意味では反抗者だったと思う。だから自分もバーマンに救われた一人として、何らかの形でバーマンの営みを引き継ぎたいと思う。自分と自分の大切な人たちが生きるこの社会を少しでも良くするために、そしてバーマンの無念を晴らすために。

The Wild Kindnessの歌詞には、バーマンの抱えた生きづらさ、やけくそのユーモア、そしてくたびれた優しさが良く表れていると思う。日本語に訳すことで、その大部分は失われてしまう。それでもバーマンの詞が持つ美しさがほんの一部分でも残り、読んだ人がそこから詞の本来の姿を想起できればと思い、ダメ元で日本語を充ててみた。よかったら読んでみてください。

 

The Wild Kindness

 

I wrote a letter to a wildflower
on a classic nitrogen afternoon
Some power that hardly looked like power
said, "I'm perfect in an empty room"

野花に向けて手紙を書いた

典型的な窒素の午後に

力に到底見えないような何かの力が

「おれは空っぽの部屋に完璧だ」と言った

 

Four dogs in the distance
each stands for a kindness
Bluebirds lodged in an evergreen altar...
I'm gonna shine out in the wild silence
and spurn the sin of giving in

遠くには四匹の犬

それぞれあるやさしさを表している

常葉の祭壇に埋もれたルリツグミ

僕は野生の静けさの中で輝きを放って

諦めという罪を突っぱねよう

 

Oil paintings of x-rated picnics
Behind the walls of medication I'm free
Every leaf in a compact mirror
hits a target that we can't see

X指定のピクニックを描いた油絵

薬の壁の裏で、僕は自由だ

サイドミラーに映る全ての木の葉は

自分たちには見えない的に命中する

 

Grass grows in the icebox
The year ends in the next room
It is autumn and my camouflage is dying
instead of time there will be lateness
and let forever be delayed

クーラーボックスには芝生が生え

一年は隣の部屋で終わる

今は秋 僕の擬態は死にゆく

時間の代わりに間に合わなさが来るだろう

そして永遠は遅延させておこう

 

I dyed my hair in a motel void

met the coroner at the Dreamgate Frontier
He took my hand and said "I'll help you boy
if you really want to disappear"

モーテルの虚空で髪を染めて

夢の門の辺境で検視官と会った

彼は僕の手を取り言った「助けてやろう、坊主

本当に消えたいのならな」

 

Four dogs in the distance
each stands for a silence
Bluebirds lodged in an evergreen altar...
I'm gonna shine out in the wild kindness
and hold the world to its word

遠くには四匹の犬

それぞれあるやさしさを表している

常葉の祭壇に埋もれたルリツグミ

僕は野生のやさしさの中で輝きを放って

世界に約束を守らせよう