この世界の平和を本気で願ってるブログ

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別に今の日本のポップスを好きになることはないけどそれは「香水」のせいではないよ

いい曲とは何でしょうか。落合博満によれば、バッティングにダメなフォームはあっても正解のフォームはないそうです。曲にも似たようなことが言えるのではないでしょうか。

 

ポップスには、「この型を押さえておけば名曲になる」というものは存在しないように思います。だけど同時に「ああこの曲はダメだ」と一瞬にして思えてしまうようなメロディラインや歌詞、アレンジは確かに存在します。例えば、

 

ドラムがドッチー

 

緑黄色社会 - Mela

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メロディーが陳腐

 

Mrs. GREEN APPLE - 青と夏

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歌詞が多い上にイタい

 

My Hair Is Bad - 真赤

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などが比較的記憶に新しく、かつそれぞれのダメ類型の代表作と言えるかなと思います。

 

以上のことから、いい曲を作ろうと思ったらとりあえず上のような落とし穴に引っかからないことが絶対条件になります。

 

そのような見方でいくと、瑛人の「香水」って実はまあまあいい曲なのではないでしょうか、という話です。

 

瑛人 - 香水

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「香水」がどうやってダメな曲の落とし穴を回避しているか、順に見ていきましょう。

 

落とし穴1「ドラムがドッチー」

ドラムを入れないことで回避

 

そもそもバッキングをアコギ一本にするならドッチーの入り込む余地はありません。単純なことではありますが、この時点であまりにも多くの日本のバンドよりもセンスが良いと言えます。潔い選択です。

 

落とし穴2「メロディーが陳腐」

陳腐すぎて逆に王道感が出てるのでセーフ

 

陳腐なメロディーラインには、言い換えれば使い古されてきたという実績があります。そしてそれはそのメロディーに人を惹きつける力があるということの証左です。つまり陳腐と王道は紙一重なのです。瑛人は変にオリジナリティを出そうとせず、陳腐に徹することで「香水」のメロディーラインを王道感のあるものに仕上げています。

 

落とし穴3:歌詞が多い上にイタい

特に大したことを言わないことで回避

 

イタさの主な要因は、だいたい「ちょっといいこと言ってやろう」という背伸びにあります。「香水」にはそうした背伸びはありません。「香水」で語られるのはクズ男のしょうもない感傷、ただそれだけです。

 

この曲の歌詞の強みは、まさにこのクズ男という主題がブレないという点にあります。クズ男の感傷から何らかの普遍的なテーゼを無理やり引っ張り出したり、逆に瑛人個人の世界観や恋愛観を独白したりするわけでもなく、ただただ自分の不誠実さと劣情を人の香水のせいにするクズの話をするところが、「香水」が広く受け入れられている所以です。

 

以上、瑛人が「香水」を作る上で実は多くのアーティストがハマりがちな落とし穴を巧みにかわしていることを見てきました。この点を持って、「香水」はダメな曲で溢れている現代日本のポップスで相対的に「いい曲」と言えるでしょう。

 

最後に、「香水」が「いい曲」であるということが日本のポピュラー音楽の現在にとって何を意味するのか、少し考察します。

 

「香水」ブームが世の中的にピークであった今年の夏頃に、「「香水」は単純で工夫がないのでダメだ」という旨のツイートがTwitterで少し話題になりました。ここまで読んでいただいたなら分かると思いますが、この批判は見事なまでに的外れであると言わざるを得ません。

 

確かに「香水」はメロディーもコードもアレンジも歌詞もシンプルで、技巧や独自性は特にありません。しかし同時に「香水」は上で見てきたように世で流行っている他のバンドの曲よりもはるかにダサくありません。むしろ、無駄でセンスのない工夫をしている他のバンドの曲と違って、自分のセンスと力量をわきまえ、単純であることによってそれなりの曲に仕上がっています。

 

「香水」は名曲などではありません。葬式で「香水」を流したいとか言ってる人がいたら人類学の研究対象にすべきです。しかし「香水」は決して駄曲でもありません。100点満点でいうなら65点くらいの曲です。人口1億2000万人の日本という国で、世界でも有数のポピュラー音楽市場において、この65点くらいの曲を遥かに下回るようなクオリティの曲が溢れているという事実は、何よりもこの国の衰退を象徴するものです。

 

日本のポピュラー音楽は岐路に立たされています。よりドッチーに、よりメロを陳腐に、より収まりの悪くてイタい歌詞に、という方向に進むのか、それとも「香水」の教訓を活かし、方向性を間違えた工夫や技巧を廃し、今一度基礎からポピュラー音楽を捉え直すのか。どちらに進むのかは分かりません。ただ、音楽がそれなりに好きな人間として、世の中に「Mela!」のような曲が増えるより、「香水」のような曲が増えたほうがよっぽど良いだろう、とは確信を持って言うことができます。

 

ちなみに、劔樹人さんの二番煎じにはなりますが、メロン記念日の「香水」はガチの名曲です。

 

 メロン記念日 - 香水

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