この世界の平和を本気で願ってるブログ

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Allo Darlin’の活動再開に寄せて

Allo Darlin'はロンドンを拠点とするインディー・ポップ・バンドである。2009年にセルフタイトルのデビューアルバムを発表した後、2012年と2014年にもアルバムをリリースしたが、2016年末に解散してしまった。しかし、つい先日、バンドのTwitterアカウントでバンドの再結成が発表され、ロンドンで数回ライブを行うことが告知されるとともに、新たに楽曲制作を行うことも示唆された。

 

このニュースを聞いて、私が思うことはただ一つ。もっと多くの人に、Allo Darlin'を知ってほしい。

 

月並みな表現だが、Allo Darlin'の音楽は癒しなのだ。それだけ聞くと「ケッ」と思う人もいるだろう。私もそうだ。「私たちの曲を聴いて癒されていただければと思います」という旨のことを言っているバンドを見る度に虫唾が走る。ポップスごときで人の苦しみが癒えると思ってんのか、思い上がるにもほどがあるだろ、と思う。

それでも人は癒しを必要とするものだ。長い1日の後はお風呂に入りたくなるし、気が張り詰めている時は紅茶を飲めば落ち着くし、もうダメだと思った時はふかふかの布団に飛び込みたくなる。そんなお風呂や紅茶や布団のように、Allo Darlin'の音は温かいのだ。大袈裟ではなく、恩着せがましくもなく、こちらを理解した風でもない。ただそこにあって、一時の温かさをもたらしてくれるのだ。

その温かさの大部分は、ボーカルのエリザベス・モーリスの歌声とウクレレの音色から来ているように思う。モーリスの声域はおそらくアルトで、高低の幅はそこまで広くないように思われるが、その分中音域における表現力が非常に高い。彼女の微妙に霞がかったような独特の声質と、歌詞の一音一音の発音の丁寧さと相まって、歌うというよりも語りかけるという表現が似合う。

また、彼女はウクレレでコードを鳴らしながら歌うのだが、このウクレレの音色が表面的には南国の太陽のような明るさを想起させるものの、よくよく聞くと空虚で物悲しい響きも含まれており、Allo Darlin'の音に絶妙な両義性をもたらしている。曲はメジャーキーのものがほとんどだが、ただ明るいだけではないところがサウンドの温かみを一層引き立てている。

 

Allo Darlin'は歌詞も素晴らしいのである。モーリスの書く詞は、人生の辛さ、悲しさ、やるせなさを正面に見据えつつ、それでも優しさや希望を抱かせてくれる。人生とは生きるに値するし、生きるに値する人生を送ることは可能なのだと思わせてくれるのだ。

活動再開に際してTwitterで発表された文章にも、そんなAllo Darlin'のエートスが詰まっているように思う。以下、原文からの抜粋と筆者による訳を記してみる。

 

In the years we were active as a band, the musical landscape changed, and we got older too. It was hard, if not impossible to make a living from music, at least the type of music we made. This is even more true today. But Allo Darlin’ was never about being successful. This year, 2023, Allo Darlin’ are going to reunite for some shows in England. We hope to make some more music together too. Life is too short to not do the things you love, to do the things that make life worth living. That goes for you too.

 

バンドとして活動していた数年間の中で、音楽界の様相も変わり、私たちも年を重ねました。音楽で生計を立てることー少なくとも、私たちが作るような音楽でーは、非常に困難か、あるいは不可能でした。このことは今、より真実味を増しています。でもAllo Darlin'は成功を収めるために結成されたわけではありません。今年、2023年に、Allo Darlin'はロンドンで数回ライブを行うために再結成します。また、楽曲の制作も再開できたらと思っています。自分の愛すること、生きていて良かったと思えることをやらずにいるには、人生はあまりにも短すぎるのです。それは、皆さんにも当てはまることです。

 

Allo Darlin'の活動再開は、単に「いいバンドが活動再開した、良かったね」という話ではない。それは、困難な状況に立ち向かいながら、なおも自分の愛することをし続けるために立ち上がった大人たちがいる証なのだ。そしてそれは自分たちにもできるかもしれないと思わせてくれる希望の狼煙なのだ。

 

Allo Darlin'の傑作アルバム「Europe」のタイトル曲に、こんな歌詞がある。

 

Europe - YouTube

 

This is life/This is living

これが人生/これが生きるということ

 

手放しで前向きな歌詞というわけではない。むしろ、聴く人やその時の気分によっていかようにも変わるだろう。嫌なことがあったときや、何かを諦めざるを得なくなった時も、それが人生であり、それこそが生きるということだと言える。でも、今日はAllo Darlin'の活動再開を受けて、自信をもって言える。生きていて良かったと思えるような何かをすること、それが人生であり、それこそが生きるということだ、と。